一般貨物は参入障壁が高い
一般貨物自動車運送事業(以下、「一般貨物」という)と貨物軽自動車運送事業(以下、「軽貨物」という)では許可取得のために求められる要件が相当ちがいます。
というのも一般貨物と軽貨物では、事業活動をするにあたって負っている義務の量が全くちがうため、それらを行えるだけの素質を審査されるためです。
申請では、軽貨物の場合
軽自動車1台とドライバー1名
がいればそれで足ります。
これは個人事業で行うことが想定されているためです。
ところが一般貨物の場合は
- 扱う車両に見合った運転免許を所持したドライバー5人以上+社会保険加入
- ドライバーとは別に、運行管理者・整備管理者の確保(どちらも要資格)
- 車両台数5台以上+一定以上の任意保険加入
- 営業所と車庫が適切な位置にあること
- 車庫は車両数に見合った以上の広さが確保してあること
- 車庫の前面道路は、その幅が適切な広さであること
- 適切な運転資金が確保されていること
という内容が審査されます。
潤沢な資金があれば解決する話が多いのですが現実にはそんなお金がないのが普通です。
とくに土地に絡む制約が多く、関係自治体窓口に実際に照会されてしまうので実態が伴わない場合は詰んでしまうことがよくあります。
一般貨物の許可申請は掛かる期間が長い
一般貨物は申請後に役員法令試験があり、許可が下りた後も運輸開始までいくつか手続きが続きます。具体的には
- 申請準備
- 許可申請
- 役員法令試験を合格
- 許可が下りる
- 新規事業者講習・許可証の受領
- 運行管理者・整備管理者選任届
- 運輸開始前報告
- 車検証の書き換え(緑ナンバー化)
- 運賃・料金設定届
- 運輸開始届
という流れになります。
許可が下りた後は事前準備さえできていればあっという間に運輸開始まで進めることができます。
ところが許可取得後にも落とし穴もあって前に進めないことや振出しに戻ることもあります。
一般貨物と軽貨物の比較
下表は一般貨物と軽貨物の実際に審査を受ける内容の比較です。
なお軽貨物の申請は申請窓口で書類審査(記載事項に不備がないかどうか)だけです。
一般貨物は申請窓口から地方運輸局へ送られ、そこで書類・実態審査が行われます。
|
一般貨物 |
軽貨物 |
審査期間(許可まで) |
3~4か月 |
届出日の当日 |
運転者 |
5人から ※ |
1人から |
営業所位置の審査 |
あり |
- |
車庫の位置・広さの審査 |
あり |
- |
車庫前面道路の幅の審査 |
あり |
- |
休憩施設の位置・広さの審査 |
あり |
- |
車両数 |
5台から ※ |
1台から |
使用施設の使用権原 |
あり |
- |
必要資金の審査 |
あり |
- |
役員法令試験 |
あり |
- |
運行管理者(要資格) |
選任が必要 |
- |
整備管理者(要資格) |
選任が必要 |
10台以上の場合は必要 |
社会保険の加入 |
必要 |
- |
連絡書の発行 |
あり |
あり |
車検証の書き換え |
あり |
あり |
運賃・料金設定届出 |
あり |
あり |
運輸開始届出 |
あり |
- |
※一般廃棄物事業者や霊きゅう限定の場合は1人・1台から可(産廃収集運搬は不可)
一般貨物申請の泣き所① 不動産関係
一般貨物の土地建物に関する事項は「都市計画法等に抵触しない」というのが条件になります。
これがなかなかのくせ者で、候補選定が難しい要件となっています。
実際、不動産屋はこのあたりの知識に詳しくない場合がよくあるため、自ら市役所の開発指導課に足を運んで確認を取るか、専門家に相談することをお勧めします。
市街化調整区域では営業所を構えることは不可ではないもののかなり難しく、車庫として使おうにも地目が「農地」ではダメなので、空き地だから使えるわけには行きません。
市街地であっても用途地域が適切でなければ不適当で許可が下りません。
車庫は追加で、車庫の出入口になる前面道路の幅に条件があります。
国道であれば無条件でクリアするのですが県道・市道では幅員証明を取得して道路幅を証明しなければなりません。
道幅が足りないために広さはあっても車庫として使えないということはざらにあります。
なお、営業所と車庫の間の直線距離にも条件があるため、「個別には適しているけれども場所が離れすぎているため不適切になる」ということもあります。
本当に土地・建物の選定は辛抱が必要です。
一般貨物申請の泣き所② 必要資金の確保
一般貨物の申請書様式には資金計画を算出するものが含まれます。これは費目にもよりますが半年~1年の運転資金を算出することになります。
これによって必要資金が決まり、これを上回る資金を確保・維持できることが審査されます。
既に何らかの事業を始めているのであれば融資も期待できるのですが、前職から独立した未経験の場合、創業融資を使っても融資条件が「許可証の提出」であることが常なので、交渉次第になります。
資金を準備することは本当に大変です。
令和元年11月の貨物自動車運送事業法改正から、必要資金の100%を求められるようになりました。
これより前では必要資金の50%で済んでいたため、今では多額の資金が必要になりましたので、もし許可取得経験者の言われることはこの点に留意してください。
おそらく正面から試算するとあっという間に額面が上がってしまいます。
営業所や車庫の賃料がかからない、車両をすでに5台自己所有(ローン完済済み)であれば額面はだいぶ下がりますがそれでも相当に掛かります。
どうしても掛かってしまう費目は仕方ないのですが、専門家に相談することで額面を抑える提案を受けることができるかもしれません。
わたし自身、
「相談した行政書士に『自己資金1500万円を用意できないなら話を聞かない』と言われた」というご相談を受けたことがあります。
実際のところは状況によって必要額面がずいぶん変わってきますので、着手前に専門家にご相談されてみるのが一番だと存じます。
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